東京高等裁判所 平成12年(行ケ)140号 判決 2000年10月25日
原告
X
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
岩出誠
同
中村博
同
村林俊行
同
小林昌弘
被告
特許庁長官【B】
指定代理人
【C】
同
【D】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判第19155号事件について平成12年4月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、商標法施行令別表による第25類の「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻類、和服、下着、水泳着、水泳帽、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、スカーフ、足袋、足袋カバー、手袋、布製幼児おしめ、ネクタイ、ネッカチーフ、マフラー、耳覆い、ずきん、すげがさ、ナイトキャップ、ヘルメット、帽子、その他の被服、ガータ、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、靴類、げた、草履類、その他の履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」を指定商品とし、別添審決謄本写しの「本願商標」欄記載のとおり、2本の曲線上にポロ競技のプレーヤーの図形と「ASCOT PARK POLO CLUB」の欧文字を表して成る商標(以下「本願商標」という。)について、平成5年1月29日に商標登録出願(平成5年商標登録願第7327号)をしたが、平成10年11月19日に拒絶査定を受けたので、同年12月10日、これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成10年審判第19155号事件として審理した上、平成12年4月6日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月8日原告に送達された。
2 審決の理由
審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標をその指定商品に使用した場合に、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「POLO」の欧文字及びポロ競技のプレーヤーの図形部分に注目し、アメリカを代表するデザイナーである【E】が長年にわたり紳士服等に使用する商標として周知著名な「POLO」商標及びポロプレーヤー商標を想起し、【E】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について誤認・混同を生じるおそれがあるから、本願商標は商標法4条1項15号に該当するとした。
第3原告主張の審決取消事由
審決は、本願商標について商品の出所の混同のおそれの認定判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 国内ポロブランドについて
審決は、「POLO」商標及び別添審決謄本写し末尾の(ロ)に表示したポロプレーヤー商標は、【E】のデザインに係る商品であることを表示するものとして著名であると認定するが、「POLO」の語を用いた商標としては、ラルフ・ローレン以外にも日本国内で「POLO CLUB」、「BEVERLY HILLS POLO CLUB」、「SANTA BARBARA POLO&RACQUET CLUB」等が有名であり、これらの国内ブランドで20年前より年間総売上2000億円を達成し、ラルフ・ローレンの年間300億円の売上の数倍の市場を誇っているほか、その宣伝・広告の規模もラルフ・ローレンの10倍を超える。そして、ラルフ・ローレンの商品が高級品として、ポロシャツの場合デパート等で8000円以上の価格で売られているのに対し、上記の国内ポロブランドは、それより下の中級品として若者を中心に圧倒的支持を得ている。これらの国内ポロブランドが、ラルフ・ローレンの日本登場をきっかけとして誕生したことは事実であるかもしれないが、その後20年間の実績を通じて、全く別のブランドとして消費者に認知されているものである。
これに対し、審決は、本願商標をその指定商品に使用した場合、【E】のデザインに係る商品と誤認・混同するおそれがあると判断するが、消費者にファッションの知識がないと決めつけたものといわざるを得ない。ファッション商品は多様化しており、我が国の消費者のブランドに対する知識は豊富であるから、商標の一部に「POLO」が組み込まれたとしても、審決のいうような誤解を与えることはない。国内ポロブランドとラルフ・ローレンとの区別がつかないような消費者はあらゆるブランドにおいて同様に誤認するもので、議論の対象外である。
ところで、東京高等裁判所平成12年1月27日判決(平成11年(行ケ)第253号事件、以下「別件判決」という。)は、「PALM SPRINGS POLO CLUB」商標につき、ラルフ・ローレンに係る「POLO」商標との関係で商品の出所混同のおそれを否定し、拒絶不服審判において請求を不成立とした審決を取り消しており、これと同様の事実関係にある本件についても、この判断が尊重されるべきである。
2 「POLO」が一般用語であることについて
「POLO(ポロ)」の名称は、ラルフ・ローレンによって創造され、日本に導入されて広められたものではない。もともと「POLO(ポロ)」は、ペルシャで始まりイギリスで盛んになった乗馬球技を示すスポーツ名であり、一般用語にすぎない。このことは、日本国内の辞書、辞典類計414件の記載から明らかであり、外国の辞書、事典にも同様に記載されている。他方、これらの辞書、辞典類において、「POLO」とラルフ・ローレンの関係が記載されているものはない。
なお、被告は、ポロ競技は日本ではなじみがないスポーツであると主張するが、日本ポロ協会は、財団法人日本体育協会の公認団体として認められているほか、英国チャールズ皇太子がポロ競技を好むことは有名で、多く報道されていること、アメリカ映画「プリティー・ウーマン」(1990年公開)の主演男優【F】のポロ・シーンが同映画のヒットで有名になったこと、【G】著作の「ポロ、その歴史と精神」が朝日新聞社より出版されていること等から、日本においても知られているというべきである。特に、近年におけるマスコミの発達、インターネットの普及等を考えると、実際にスポーツを行ったり観戦することとスポーツ名としての認識が確立することとは無関係というべきである。
また、日本では「POLO(ポロ)」は、「ポロシャツ」の略称として普通に用いられる言葉であり、消費者に認知されている。このことは、辞書、商品カタログ、雑誌広告などの記載から明らかである。
3 「ASCOT PARK POLO CLUB」が実在のポロクラブであることについて
本願商標の文字部分である「ASCOT PARK POLO CLUB」は、英国に実在する有名なポロクラブの名称である。同クラブの主宰者【H】は、ポロのプレーヤーとして有名であると同時に、ポロの指導者としても、世界的に有名な「ポロ・スクール」を開設して多くのポロ競技者を育成しており、その著作「POLO」は、ポロ競技のバイブルとして全世界で愛読されている。また、英国のチャールズ皇太子、故ダイアナ妃も、同クラブをよく訪問し、チャールズ皇太子は同クラブにおいて再三競技を行っている。
さらに、同クラブとその主宰者の「【H】一家」は、日本の有名な女性雑誌「25ans(ヴァンサンカン)」1995年3月号(婦人画報社発行)でも紹介され、大きな話題になり、我が国のテレビでのコマーシャルにも長く登場した。
原告は、同クラブと契約して、スポーツイメージのライセンス商品の展開を行うことを考え、本願商標の登録出願をしたものであって、同クラブから本願商標の登録出願の同意を得ている。
4 「POLO」の登録商標について
【E】のデザインに係る商品の主力である平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の商品区分第旧17類についての「POLO」の登録商標(登録第1434359号)は、昭和55年9月29日に他人によって登録され、その後譲渡を受けたポロ・ビーシーエス株式会社が現在の商標権者となっている。したがって、ラルフ・ローレンは、他人の登録商標を日本国内で有名にしたというにすぎない。また、仮に、ラルフ・ローレンが「POLO」の登録商標について何らかの権利を有しているとしても、ポロ・ビーシーエス株式会社が「米国ポロ・ロ―レン社とは、契約により友好関係にあります。」と広告していること、ビバリーヒルズポロクラブが「自分たちのブランドは、ラルフ・ロ―レンとの共存関係を維持していくことが確認されている。」と宣伝していることからすると、【E】自身は、自己の権利を放棄し、又は他の「POLO」ブランドの存在は、何ら自己の営業活動に実害がないと表明しているものにほかならない。
第4被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
1 国内ポロブランドについて
【E】のデザインに係る被服等について使用される標章は、「Polo」の文字とともに「by 【E】」の文字及び別添審決謄本写し末尾の(ロ)に表示されている「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章(以下「ラルフ・ローレン標章」という。)から成るところ、我が国においては、これら標章を総称して単に「POLO」、「ポロ」と略称していたというべきであり、「POLO」、「Polo」、「ポロ」の標章は、遅くとも昭和59年ころまでには、【E】のデザインに係る被服等に使用される標章として、取引者、需要者の間に広く認識されるに至り、その認識の度合いは現在においても継続しているというべきである。
そして、原告の主張する国内の多くのポロブランドは、ラルフ・ローレン標章の誕生後、相当の期間を経た後に出現したものであるから、「POLO」商標の使用は、ラルフ・ローレン標章に便乗したものといっても過言ではない。そうすると、原告の主張するように、ラルフ・ローレン以外にも「POLO」の語を含む商標を使用する者が多数存在し、それらの売上がラルフ・ローレンの商品の売上と拮抗しているという実情があるとしても、我が国において「POLO」といえば、ラルフ・ローレンがファッション関連の商品に使用する標章を連想し想起させるものであるから、取引者、需要者に商品の出所についての誤認・混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
なお、別件判決は、事実認定に誤りがあり、経験則に反し、商標法4条1項15号の解釈を誤ったものであるから、本件について参考にされるべきではない。本件と同種の事案については、東京高等裁判所の平成11年12月16日判決(平成11年(行ケ)第250号。商標「The Polo Cup Challenge」)、同日判決(平成11年(行ケ)第251号。商標「Polo Team」)、同日判決(平成11年(行ケ)第290号。商標「ROYAL PRINCE POLO CLUB」)、同月21日判決(平成11年(行ケ)第268号。商標「ROYAL POLO SPORTS CLUB」)を始め、圧倒的多数の判決において、商品の出所混同のおそれがあるとされており、本件についても、これらの判決を参考とすべきである。
2 「POLO」が一般用語であることについて
原告は、「POLO」はポロ競技を示す一般用語ないしポロシャツの略称として認知されていると主張するが、ポロ競技は、我が国においては、その愛好者は極めて少なく、なじみの薄いスポーツである。また、仮に、「ポロ(POLO)」の語がポロシャツの略称であるということができるとしても、それは本願商標の指定商品中のポロシャツについてのみであり、他の指定商品については十分に自他商品の識別機能を発揮するものである。
なお、原告は、「POLO」とラルフ・ローレンの関係を記載した辞典類はない旨主張するが、「ランダムハウス英和大辞典(第2版)」(株式会社小学館1998年1月10日発行、乙第1号証)には、「Polo」の語の意味として、「商標 ポロ:米国の【E】デザインによるバッグなどの革製品」、「ポロ→Polo by 【E】」の記載がある。
3 「ASCOT PARK POLO CLUB」が実在のクラブであることについて
我が国において「ASCOT PARK POLO CLUB」がクラブ名として知られているとはいえない上、これが実在するクラブであるか否かと、それを商標として商品に使用した場合に、商品の出所混同のおそれがあるか否かは別のことである。
4 「POLO」の登録商標について
原告主張の「POLO」の登録商標がラルフ・ローレンの所有に属さないとしても、ラルフ・ローレン標章は、被服を始めとするファッション関連の商品分野において、【E】のデザインに係る被服等について使用される標章を総称するものとして、取引者、需要者に広く認識されているものである。また、ラルフ・ローレンが他の「POLO」ブランドの日本国内での展開に協力し、自己の営業活動に影響がないと判断することと、審決の判断する商品の誤認・混同のおそれとは別な次元のことである。
第5当裁判所の判断
1 本願商標の商標登録出願時における商品の出所の混同のおそれについて
(1) 乙第2~第11、第12号証の1、2、第13号証の1、2によれば、以下の事実を認めることができる。
【E】は、1939年(昭和14年)生まれのアメリカの服飾等のデザイナーであり、アメリカのファッション界で最も権威があるとされるコティ賞を1970年、73年の2回にわたり受賞し、1974年の映画「華麗なるギャツビー」で主演した【I】の衣装デザインを担当するなどして、世界的に知られるようになった。ラルフ・ローレン標章は、【E】のデザインに係る商品に使用されている。我が国においては、【E】のデザインに係る商品(眼鏡、ネクタイを除く。)の輸入・製造・販売のライセンスを得ていた西武百貨店の昭和62年におけるポロ・ラルフ・ローレンブランドの小売販売高は約330億円に上り、平成元年ころ及び平成4年ころには、第三者がラルフ・ローレン標章ないしこれに酷似した標章を付した偽ブランド商品を販売して摘発されるという事件が発生するほど、ラルフ・ローレン商標は顧客吸引力を有していた。また、本願商標の商標登録前から、各種雑誌等において、ラルフ・ローレンのデザインに係る紳士服、婦人服、眼鏡等の商品が一流ブランドないし流行ブランドとして、「ポロ」、「POLO」、「Polo」のブランド名で紹介され、一般新聞においても、「『Polo』(ポロ)の商標で知られるラルフローレンブランド」(平成元年5月19日付け朝日新聞夕刊、乙第13号証の1)、「ラルフローレンのポロのマーク」(平成3年12月5日付け朝日新聞大阪地方版/京都版、乙第12号証の2)、「アメリカの人気ブランド『ポロ』(本社・ニューヨーク)のロゴ『ポロ・バイ・ラルフ・ローレン』」(平成4年9月23日付け読売新聞朝刊、乙第13号証の2)などの記載が用いられるように、ラルフ・ローレン標章は、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標の名で知られ、これを付した商品もブランドとして「ポロ」「(POLO」ないし「Polo」)と呼ばれていた。
以上の事実によれば、本願商標の商標登録出願時(平成5年1月29日)までには、ラルフ・ローレン標章は、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の商標などと呼ばれ、これを付した商品もブランドとして「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)と呼ばれて、紳士服、婦人服、眼鏡等のファッション関係商品について【E】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であったことが認められる。
(2) 次に、本願商標の構成について検討するに、本願商標の図形部分は、文字部分と相まって楕円形を形成する2本の曲線と、ポロ競技用のマレットと思われる先端がT字状になった棒を持っている馬上の競技者の図形とで構成されているところ、このうち、2本の曲線は商標全体の縁取りにすぎないのに対し、馬上の競技者の図形が商標の中央部分に大きく表示されて見る者の注意を引くところである。しかし、この馬上の競技者の図形は、マレットと思われる棒を持っている点で、ラルフ・ローレン標章のうちの図形の商標と共通性があるために、「ポロ」ないし「ポロ競技プレーヤー」と観念されるものではあっても、「ASCOT PARK POLO CLUB」という文字ないし観念を想起させるものではない。
一方、本願商標の文字部分は、17文字からなり、これから生じる「アスコットパークポロクラブ」の称呼は長音を含む12音で構成されているから、その外観、称呼とも、1つの名称のものとしては冗長というべきものであって、本件全証拠によっても、「ASCOT PARK POLO CLUB」との文字が、全体として特定の熟語や団体の名称を表すものとして我が国の一般の取引者、需要者によく知られているものとは認められない。
このように、本願商標の図形と文字の結びつき、文字相互の結びつきは、それを分離して観察することが取引上自然であるといい得るほど不可分に結合していると認めることはできない。
(3) 以上の認定判断に基づいて、本願商標についての商品の出所混同のおそれについて判断するに、本願商標がその指定商品のうち「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類」等のファッション関連商品に使用された場合、これに接した取引者、需要者は、先端がT字状になった棒を持っている馬上の競技者の図形が、上記のようにラルフ・ローレン標章のうちのポロプレーヤーの図形と共通する図形であることに着目し、さらに、その「POLO」の文字部分に着目して、「ポロ」(「POLO」ないし「Polo」)の標章と呼ばれるラルフ・ローレン標章ないしそのブランド名を連想し、【E】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生じるおそれがあるというべきである。
2 審決時における商品の出所の混同のおそれについて
乙第1、第13号証の3~5及び弁論の全趣旨によれば、本願商標の商標登録出願後、審決時までの間においても、平成10年1月10日小学館発行の「ランダムハウス英和大辞典(第2版)」の「Polo」の欄に「(商標)ポロ:米国の【E】デザインによるバッグなどの革製品」及び「ポロ→Polo by 【E】」との記載があり、また、新聞においても、「ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠」の販売行為の摘発記事(平成5年10月13日付け読売新聞大阪版朝刊、乙第13号証の3)、「米国の衣料品ブランド『ポロ・ラルフローレン』の偽物セーター」の販売行為の摘発記事(平成11年9月9日付け日本経済新聞朝刊、乙第13号証の5)などが掲載されたことが認められ、以上を総合すれば、前記1の認定に係る商品の出所混同のおそれは、審決時においてもなお継続していたものと認めることができる。
3 原告の主張について
(1) 国内ポロブランドについて
原告は、ラルフ・ローレン標章以外にも「POLO」の語を含む商標は多数存在し、これらはラルフ・ローレンとは別のブランドとして消費者に認知されている旨主張する。
確かに、甲第2号証の1~197、第18~第20号証、第21号証の1~7、第24号証の1、2によれば、本願商標の商標登録出願当時、すでに「POLO」の語を含む商標が多数存在し、特に被服等を含むファッション分野の商品に使用され、そのうちの一部は活発な宣伝活動を行い、特に上野衣料株式会社から専用使用権の設定を受けた株式会社ポロクラブジャパンが商品展開する「POLO CLUB」ブランドについては、年商(小売ベース)280億円といわれていたことが認められるが、これらの証拠は、本願商標とは別の商標(大部分は上記「POLO CLUB」商標)に関するものにすぎず、本件全証拠に照らしても、本願商標がその商標登録出願当時に取引者、需要者に広く知られていたことを認めることはできない。したがって、本願商標と関係のない国内ポロブランドが多数存在し、かつ、その一部が活発な宣伝活動をしているとしても、本願商標についての商品の出所混同のおそれが否定されるものではないというべきである。
この点について、原告は、ファッション商品は多様化しており、我が国の消費者のブランドに対する知識は豊富であって、上記のような誤認を生じることはない旨主張するが、我が国の消費者が、「POLO」の語を含む多数の商標について、その商品の出所についてまで正確に認識していることを認めるに足りる証拠はなく、特定の企業が中核となるブランドからいわゆる兄弟ブランドを派生させて商品展開をすることも少なくないとの実情をも考慮すると、この主張は採用することができない。
また、原告は、「PALM SPRINGS POLO CLUB」商標に係る別件判決の存在を指摘するが、本件とは事案を異にするものであって、上記の判断を直ちに左右するものではない。
したがって、これらの点についての原告の主張は理由がないというべきである。
(2) 「POLO」が一般用語であることについて
「POLO(ポロ)」の語が乗馬球技であるスポーツ名を示すものであることは、当裁判所に顕著であるが、ラルフ・ローレン標章が「POLO」と呼ばれて、【E】のデザインに係るファッション関連商品に付される商標として著名であることは前示のとおりであるから、ファッション関連商品を指定商品とする本願商標に接した取引者、需要者が、本願商標の文字部分のうち「POLO」の語に注目するのは自然なことであって、「POLO」がポロ競技を示す一般用語であることと矛盾するものではない。加えて、乙第14~第16号証によれば、ポロ競技は、我が国においては比較的関心が薄く、なじみのないスポーツであると認められるところであり、甲第30号証の1、2、第31号証の1~4、第32、第34号証1、2、第36号証の1~17は、上記認定判断を左右するものではない。
次に、原告は、「POLO」はポロシャツの略称として普通に用いられる旨主張するが、本願商標がポロシャツ以外の指定商品に使用された場合に、取引者、需要者が「POLO」の語をポロシャツを示すものとして認識することはないというべきであるから、この点についての原告の主張も理由がない。
(3) 「ASCOT PARK POLO CLUB」が実在のポロクラブであることについて
原告は、「ASCOT PARK POLO CLUB」が英国に実在するポロクラブであり、我が国にも紹介されていると主張するところ、甲第12号証の1、2によれば、同クラブが英国に実在するポロクラブであることは認められるものの、このことが我が国の取引者、需要者に知られていることを認めるに足りる証拠はない。すなわち、原告の主張に係る「25ans(ヴァンサンカン)」1995年3月号(甲第16号証)は、ポロ競技とそのプレーヤーである「【H】4姉妹」らを紹介する記事にとどまり、「ASCOT PARK POLO CLUB」についての記述はないし、他に同クラブが我が国に紹介されたことを示す証拠はない。
したがって、同クラブが英国に実在するという事実は、我が国における本願商標についての商品の出所混同のおそれの判断を左右するものではない。
(4) 「POLO」の登録商標について
原告は、ラルフ・ローレンが「POLO」の登録商標(登録第1434359号)の商標権者でなく、また、仮に、ラルフ・ローレンが何らかの権利を有していたとしても、ラルフ・ローレンはその権利を放棄し、又は他の「POLO」ブランドの存在が自己営業活動に実害がないと表明している旨主張する。
しかし、ラルフ・ローレンが上記登録商標の商標権者でないことは、本願商標についての商品の出所混同のおそれの判断に何ら影響を及ぼすものではないし、原告の主張するように、ラルフ・ローレンが、一部の企業との間で「POLO」ブランドの使用に関して友好関係を構築し、その旨を外部的に宣伝するという事実があったとしても、そのような事実か、ら原告主張のように、ラルフ・ローレンが自らの権利を放棄したとか、他の「POLO」ブランドの存在が自己の営業活動に実害がない旨の表明をしたといった事実を推認することは到底できないというべきである。
したがって、この点についての原告の主張も理由がない。
4 以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)